それは、わが国の建築を志す者に行われる教育カリキュラムに不備があるからです。たとえば、大学の建築科では木造住宅に関する教育はほとんど行われていません。特に、家自体を支え、家族の安全を守る構造材として使用される無垢材の性質やその無垢材の強度・耐久性に大きな影響を与える木材乾燥に関する講義はまったくと言っていいほどありませんし、国家資格である一級建築士資格試験にも無垢材の性質や木材乾燥に関する出題は一問もないのです。
建築士の資格には現在、一級建築士、二級建築士、木造建築士という3つの資格があります。一級建築士はどんな大きな構造・規模の建築物も設計することができますが、二級建築士には設計できる建物の規模に制限があります。さらに、木造建築士は大工さんなどの工務店関係者を想定した資格で、二階建てまでの一般の住宅規模の建物の設計ができる資格です。
高学歴時代の今は、大学で建築を学ぶケースが多く、大学卒業資格を得て2年の実務経験を経れば一級建築士の受験資格を得られるので、大学を卒業して建築関係の会社に勤めた人達はこの一級建築士の資格取得を目指すことになります。
大学の建築学科に入って最初の実習課題は、もっとも取っ付きやすい木造住宅の設計です。しかし、それはプランニングや空間構成といったデザインを考えるためのもので、そこではまだ構造的にどう成り立っているのか、といったことは問われません。そして、その後もやはり課題は規模の大きな建物にシフトしていくだけで、デザインの考え方を学ぶものなのです。4年生になって、構造系のゼミに入っても、そこでは鉄骨やコンクリートの構造を扱っているのが一般的ですし、木造を専門に研究しているゼミでもなければ、結局、卒業するまで一軒の木造住宅がどこにどんな木材が使われ、木材同士がどのように接合され、どのような納まりで仕上げられるのか、もちろん木材そのものの性質についても学ぶ機会はまったくないのです。
これは、大学という教育機関がそもそも物事の考え方を教える場であり、実務を教える場ではないということから、大学の建築学科の教授自体、木材の研究をしている人はおろか、木造という構造を研究している人もほとんどいないということです。
従って、大学の建築学科を出て、就職してからやっと木造設計の実務を学ぶことになります。設計以外の道に進む人も多いのですが、建築設計事務所に勤めても、そこが主に鉄骨造や鉄筋コンクリート造等の建物を設計している事務所だったら、もちろん木造について学ぶ機会はありません。
また、たとえハウスメーカーに就職して年間何十件もの木造住宅の設計に携わっていたとしても、ハウスメーカーはその仕様が決められていますから、設計者はただその仕様に従ってプランニングをこなしているに過ぎないのです。
そして、ほんのわずかな人達が木造住宅の設計を行っている建築設計事務所に入り、木造設計の実務を学ぶことになるのですが、それでも木そのものに関する知識を得る機会がないために、デザインを売りにした木の家を設計せざるを得ないのです。 |